巻の五 陛下の「ならん」
戦争法反対デモにおいて、明らかに一般国民に遅れて突然現れ、メディアに大きく取り上げられていた学生グループ「シールズ(SEALDs)」に期待を寄せ、その若き力で民意と熱意を形にしていくことを望んでいた多くの国民に対し、シールズは、7月10日の参議院選挙直後に、誰一人も予想しなかった「来月15日に解散予定」を発表した。そして、本年8月15日に皮肉にも玉音放送をBGM(背景音楽)に「腐ったnation(国家)を再構築する」などとラップ口調で歌う動画を公開し、解散した。この動画からもよく分かるように、シールズはいかにも国民の声ではなくデマ集団であり、真の民主主義的動きを乗っ取ることによりその動きが方向を失うための、結局は内閣の手先に他ならない一握りの若者であったのであり、やはり、恥を受けて過去に消え失せた。同じころ、政界が民意を踏みつけ、法案を強行採決した際に無力さと悔しさを噛みしめた国民もまた、シールズの解散を受け、希望を失い、疲れ果ててしまっていた。
つまり、根黒主義者の計画どおり、憲法改悪の動きが顕著になる前に、国民の声は沈んでしまった。
されど、その時、日本国民統合の象徴でいらっしゃる天皇陛下の歴史的なお言葉が全国に放送された。
お言葉を述べられる天皇陛下
(本年8月8日のテレビ放送より・http://www3.nhk.or.jp/news/special/japans-emperor/ )
陛下はこのお言葉をとおして、お気持ちの表れとして、次の観点を強調された。
一、主権が国民にあること
これは、民主主義と見なされているわが国の構造からすると、当然とも言えるが、陛下
が政府、国会や公的機関に一度も言及されなかったことは、実に意味深いことであり、陛
下御自身がこの流れの危機を示された観点である。
一、象徴天皇制が永久に続くことをお望みのこと
これは、陛下がこれまで象徴としてお心を込めて国民そして世界に対して行われたお務
めを幸せと認識されていること、並びにそれゆえ、「元首」という曖昧な言葉や危険な模
索を避けるべき、という明確なご意思を表された観点である。
一、「祈り」の観点
「祈り」は、いかなる時にも極めて不可欠であり、積極的な行為であることから、「運
命」や「仕方がない」という、成り行きの姿勢とは根本的に異なるものである。このた
め、これは、現在起きていることに力ある限り大胆に関わることの重要性を示された観点
であり、同時に、この「中今」(なかいま)を生きることを国民に強調された点である。
陛下のお心を表すこのお言葉は、確かに譲位のご希望とその具体的な課題に関する内容ではあるが、日本国の象徴としてのお言葉であったことや強調された内容などを的確に理解することに努めたところ、お言葉を、譲位のご意向に限定して解釈してはならないこと、すなわち、政治に対してお考えを表明することができないなかで、譲位のご意向と課題を枠として用いられた、という理解に至ることができた。
つまり、沖縄の米軍基地問題で民主党政権が衰退しはじめたその危機をご覧になって間もなくの2010年(平成22年)7月の宮内庁参与会議から譲位のご意向を示されていた陛下が、自民党の憲法改正草案がお手元に上がっていたはずなかでの本年8月、つまり、安倍晋三と麻生太郎を中心とするこの3年半にわたる各内閣が、国民や専門家の憲法に根付いた実に明らか且つ断固たる反対を冷淡に払い除けたことによる今の国家危機をご覧になり、このタイミングでついにビデオメッセージの形でご意向を表明されたのであるため、これは、わが国全体が直面するこの加速しつつある流れ、すなわち、必ず人権を後回しにする流れに対する、
明仁天皇陛下御自身による、最終的御決意をもっての極めて明確な「ならん」のお言葉
である。
陛下は国民主権を強調され、国民は陛下の譲位のご意向を謹んでお受けした。
実に、陛下と国民とのこのような親近関係は、日本史上初のことである。